「YES IT'S ME」、人のファッションを笑うなという話

お化粧もスカートもヒールの靴もなんだか恥ずかしくって後ろめたくって出来なかった
女をうまく生きられなくて男の人になりたかった
ヤマシタトモコ『YES IT'S ME』

レースもフリルも似合わない、男勝りな自分にはスカートよりショートパンツ、ピンクよりネイビー、ツインテールじゃなくてポニーテール。可愛いお洋服を売っている店に入るのも恥ずかしかった。勇気を出して買ったグレーのシフォンスカートはお姫様みたいで、けれど「舞踏会にでもいくの?」と母にわらわれてゴミ袋に突っ込んでしまった。

「TPO」「肌出し過ぎじゃない?」「水商売みたい」「おかしな服買ってるね」

オトコオンナの呪いに抗って、いざ好きな服を買おうとしたら家で投げつけられるのはそんな言葉でわたしは服が嫌いになった。クローゼットは真っ黒、オールブラックもいいよねなんて言い訳をして色鮮やかな服の群れを横目にデパートを早足で通り過ぎた。かっこいいと言われることが増えて、それはオトコオンナと同じ響きを孕んでいた。

それでも最近ようやく、少しずつ好きな服に手を伸ばせるようになった。何を言われても顎を上げて反論できるようになった。好きな服を人に褒められた時の弾む心を抱えて、鏡を覗くのも楽しくなって。メイクが濃いとの母の酷評もどうでも良くなった。

ファッションはその人の心の望むあり方を描くものだ。誰にだって否定する権利はない。