いつかは今のさきにしかないというのに

九龍ジェネリックロマンスに出会ってしまった。とんでもなく良い。

絵のセンス、街並み、表情、リアクション、小物、なにより繊細に伏線の張られるストーリー。夢中になって読んだ。単行本派なので2巻の発売が待ち遠しい。これだから漫画を読むのはやめられない。

新米喫煙者のわたしには、煙草のシーンに情緒があるのも嬉しい。煙を吐き出す角度、吸う仕草、緩む表情。

煙草の煙を吐き出すとき、胸の中のなにかも一緒に出ていくような心地がする。塊を吐き出したくて煙を含む。
煙草は体に悪い、知らない人と寝るのは危ない、ゲームにのめり込んではいけない、アルコールには中毒性がある、チョコレートは食べすぎてはいけない、スルメイカは胃に悪い。どれも全うで健全な助言だけれど、いつも見つめる先のズレに苦笑してしまう。

煙草を吸う人、アルコールに酩酊する人、知らない男に組み敷かれる人。わたしたちにはきっとそうしなければいつかがなかった。今をなんとかして凌がなければ、目の前の道はあっさりと途切れてしまうから、いつかを望んで今を乗り切ろうとして禁忌に手を伸ばす。悪魔のささやきに身を任せる。

高校生のころ、セックスの約束をして会おうとしたおとなは写真と全く違う顔をしていて、わたしは震える足でひとつしかない改札を抜けて反対側の出口から出た。何度も届く「いつ着く?」のメールが怖くて、ひとつ先の駅まで歩いて逃げた。けれどその次の日、またわたしは違う大人と約束をした。そうでないと生きていけなかった。息苦しくてしんでしまうと思った。いつでも身を投げられてしまうから、駅のホームに柵を設けて欲しかった。

とおい先の健康のために、己を律することなんでできない。未来と言われてもせいぜい5年先ぐらいまでで、その未来さえ自信がない。