邂逅の階段

兄が階段の天辺に座り込んでいた。どうやら疲れ切ってしまったらしかった。

なにがそんなに疲れさせたの、ときくと、わからないという。お前の存在、なんて軽口を叩いてきたので、突き落とすよと脅した。

とりあえず肩を揉んだ。肩甲骨と肩甲骨の間が張り詰めて、まだ若い体のしなやかさを損なっていた。かわいそうに、と思った。

深呼吸をしているようだった。8秒息を吐くといいよ。5秒かけて吸って、3秒待って、また8秒吐くんだよ。8秒以外は適当に言った。吐くのに8秒、だけが持っていた知識だったので。

3度ほど深呼吸をして、よし、と兄は立ち上がった。わたしは1度その肩を叩いて自室に戻った。

受験生のとき、階段の下でぼんやりと座り込んでいたわたしの隣におもむろに兄が蹲み込んで、右腕を揉んだときのことを思い出した。