子どもの憧憬

というタイトルで、昔、短いエッセイを書いた。もう5年も前の話だ。その時は子供と書いたが、今は意志を持つ年の幼い人々に敬意を表して、子どもと書く。

それは13歳のわたしの恋心についてだった。当時、私は運動部に所属していて、練習漬けの毎日だった。
ひとり、綺麗だと思う先輩がいた。凛とした人だった。後輩と接するとき、不器用に強張る表情筋と、同期とはしゃぐ幼い笑顔が好きだった。

わたしは運動部の出来損ないで、今も昔も少し体が弱く貧血を起こしてばかりいた。困ったことに、どんなに水分を摂っていたって、どんなにバランスの良い食事をしていたって足りない血は足りないのだ。体力もないが血もない。

体育館の隅で吐き気を耐えてうずくまる。頭はガンガンと内側から叩かれるようで、脹脛はわずかに震えていた。

ふ、とわたしの前に影が落ちた。怒られるのかと思って顔を上げた、目の前には彼女がしゃがみ込んでいた。

相変わらずの不器用な口調で、大丈夫、と彼女はたずねた。何も言えずただ頷くと、困ったように彼女はその短い髪を片手でかき混ぜて、ぶっきらぼうに言葉を続けた。

「ちゃんと水、飲んで。・・・無理せず」

もう一度頷くと彼女は立ち上がった。動いたはずみに、つん、と匂いが鼻を刺した。多分湿布の匂いだった。

数ヶ月後、わたしは部活をやめた。学校にあまり行けなくなったから。校内で会っても、気まずさに会釈はできなくなった。ただ目線を落として、足早に通り過ぎた。

幼い憧憬で、幼い恋だった。今でも思い出す。