緊急避妊薬、身を守ること

性暴力サバイバーの方に、このページはあまりおすすめできない。


緊急避妊薬が薬局に置かれることになる、と聞いて、まず最初に浮かんだのは安堵だった。

わたしはPMSPMDD、生理痛、どれも酷いので低容量ピルを常に内服している。地元にある産婦人科を使っているが、家からは交通の便が悪く、歩いていくか、バスを乗り継いでいくか、どちらにしても1時間はかかる。

もし、低容量ピルを飲み忘れた日があったとして、もし、その日に望まない性行為を働かれたとして。きっとわたしは産婦人科までいけないだろう。遠いから。たった1時間、されど1時間。初めて痴漢にあった日、わたしは乗り換えた電車の座席に座ったまま、立ち上がれずにずっと泣いていた。立ち上がって、学校に向かう、それだけの動作がどうしてもできなかった。合意のない性行為なら、もっと傷は深いだろう。家を出て、男の人とすれ違うだけでも怖いかもしれない。わたしは、電車の中で男の人に後ろに立たれるのはひどくこわい。迷惑と言われようと、リュックは背中からおろせない。学生鞄を抱えていたらスカートをめくりあげられたから。下着に触れられようと、ナプキンをなぞられようと、両手が塞がっていたから満員電車の中で抵抗なんてできなかった。降りる寸前、踵を返して逃げていこうとする背中を弱々しく殴った。それだけ。

女性は、常に加害に警戒している。混んでいる電車。人のいない夜道。すぐそばを通り過ぎていく自転車。道端に停められた車。加害をしろと教えられている。抵抗しなければ合意と見なされる。抵抗すれば逆上した犯人に殺される。守らなければ、自分で、自分を、守らなければと、身に染み付いている。

緊急避妊薬は、そんな女性のためのひとつの救済策だ。最後の最後、なんとか自分の身を守手段だ。それはすべての女性が持つべき選択肢だ。

もちろん、性被害に限らない。恋人がスキンをつけてくれなかったとき、自分の考えの浅さで生でいいよといってしまったとき、スキンが外れてしまったとき。わたしたちはいつも、次の生理がくるまで気を張り詰めている。ナプキンを汚す血に、もう大丈夫だと息を吐く。


生物学的に女性である限り、生理とも妊娠とも縁を断ち切ることはできない。だからこそ、コントロールする手段は手に届くところになければならない。