「ヤングアダルト」、リストカットの話

夜を越えるための唄が死なないように
手首からもう涙が流れないように

マカロニえんぴつ「ヤングアダルト

一度だけ手首を切った。

たしか親と言い争った日だった。たぶん高校生か中学の終わりで、中学一年性の希死念慮に囚われていたときのことを「頭がおかしかったとき」と称されて、どんなに言葉を尽くしても理解されない過去の絶望に震えが止まらなくなった。自分の部屋に駆け込んでも、手も足も小刻みに震え続けていて、追い詰められてカッターを手に取った。なんとかして、手足の感覚を取り戻したかった。自分の意識とは裏腹に震える四肢が怖くてたまらなかった。

刃のあとを追うように線が生まれて、ゆっくりと滲む赤にようやくほっとした。ゆっくりと震えはおさまった。大丈夫だ、と思った。わたしは生きている。わたしは誰よりも自分が生きていることが許せなくて、同時に誰よりも許したかった。

涙を流すのは、誰かに気づいてもらいたいからだと思っている。手首から流れる涙はSOSだ。気づいて欲しい。助けて欲しい。すくわれたかった。

母が手首の涙の跡に気づくことはなかった。