月と地球の金太郎飴/「時計じかけのオレンジ」

ところで、右耳に3個目、両耳で4個目のピアスをあけた。ピアスをあける、の、あ、が開なのか空なのかいつも迷ってしまう。穴を開ける、なので開なのだろうけど、イメージとしては空がむいている気もする。

ディムのやつだけは恒星や惑星やお月さんを、ぽかんと大口開いて見上げ、こんなものはじめて見つけた子供みたいに、いうのだ。
「あすこにゃ、誰がいるのかね?あんなとこに、何があるんだろね?」
(中略)
「あんなとこに、おまえ、行こうなんて思うんじゃねぇぞ。こことちっとも変わらねえんだよ、あそこもな。ナイフで刺されるやつもいりゃナイフを突き刺すやつもいるってもんだ。」
アントニイ・バージェス時計じかけのオレンジ

ピアスの穴は想像する時が一番美しいし、処女膜はなくなってから惜しくなる、青春は振り返って惜しむもので、虹の足はどこにもない。なんだって遠くにあるときがとっておきの宝石に見えるもので、けれどたどり着いてみればちっぽけで代わり映えのしないガラスにすぎないのだ。

こんなご時世であるので、他県のナンバーを携えた車を傷つける人がいるのだという。おいつめられてみれば「勤勉」「親切」を謳うひとたちもそんなもので、東洋の神秘を求めてやってきたマルコ・ポーロはがっかりしただろうなぁ、と思う。どこへ行ったって金太郎飴と同じ、刺す人間と刺される人間がいて傷つける人間と傷つく人間がいるのだ。