「スプリットタンって知ってる?」
「何?それ。分かれた舌って事?」
「そうそう。蛇とかトカゲみたいな舌。人間も、ああいう舌になれるんだよ」
金原ひとみ『蛇にピアス』
『蛇にピアス』の冒頭も冒頭、最初の1ページ目の会話だ。同書によると、舌ピアスのゲージを徐々にあげていき、穴を拡張して最後に切り離すとスプリットタンになれるらしい。生きていく上でこれっぽっちも必要がない人体改造。
ピアスもタトゥーもスプリットタンも生きていく上で必要なんてない。それでも何故するのかと言ったら、やっぱり何かを証明したいのだと思う。
ここにいること。自分が自分であるということ。自分の体は自分のものであるということ。
海で死んだ遺体は身元の判明が付き難い有様になってしまうから、漁師は昔刺青を入れたのだと聞く。
「己はお前をほんとうの美しい女にする為めに、刺青の中へ己の魂をうち込んだのだ、もう今からは日本国中に、お前に優る女は居ない。お前はもう今迄のような臆病な心は持って居ないのだ。男と云う男は、皆なお前の肥料になるのだ。………」
谷崎潤一郎『刺青』
持って生まれた体に手を加えて本当の自分になるのだ。肉体に穴を穿つ事は不可逆な行為である。時がたち穴が埋まっても、穴を開けたという事実は失われることはない。「ホリミヤ」でも「オタクに恋は難しい」でも、彼らは痛みを確認するように、大人になろうと、自分であろうと足掻くように耳に穴をあける。
ということで、右耳に2個目のピアスを開けた。これで左右4個目、1個はもう埋まってしまったけれど。
ピアッサーはおなじみセイフティピアッサーを使っている。自分で多少グッと押し込む必要があるけれど、バネが効かない分狙ったところに挿せるのでリピートした。
次はタトゥーを入れたい。

- 作者:金原 ひとみ
- 発売日: 2006/06/28
- メディア: 文庫