「PSYCHO-PASS GENESIS1」という衝撃の話
まだ1巻しか読めていないところで感想を書くのもいかがなものかとは思ったが、どうせこのブログは備忘録のようなものであるので気軽に綴ってみることにした。
人の心理状態や性格的傾向を計測し数値化した「PSYCHO-PASS(サイコパス)」によって記録・管理された時代、というのがアニメ・小説・映画という多様な媒体で繰り広げられるPSYCHO-PASSという世界である。
これはアニメの1話から至極当然の前提として提示されるもので、その意義を考えることはあれど、どこか「そういうものだ」という納得を捨てきれずにいた。
捨てきれずにいたところで、この小説である。
PSYCHO-PASS GENESISは「GENESIS」つまり創世記の名の通り、シビュラシステムが導入される時代を描く。それを読み、愕然としたのだ。あくまでフィクションではあるが、私たちの世界からあくまで地続きの世界として、本シリーズの世界は作りあげられていた。
PSYCHO-PASSのディストピア作品としての1面を、まざまざと見せつけられた気分だ。
他の記事で触れた「PSYCHO-PASS ASYLUM」はアニメの登場人物のスピンオフに近く、もちろん衝撃的でありひどく印象的な作品ではあったのだが、PSYCHO-PASSの世界を掘り下げることは目的とされていなかったと思う。
対して、「PSYCHO-PASS GENESIS」はPSYCHO-PASSの世界を掘り下げる小説なのだ。もちろん馴染みのある登場人物には親しみを感じるし、スピンオフとしても楽しめると思うのだが、それ以上に一個の小説であると感じる。
なんとかラストまでたどり着かなければ。劇場版のノベライズも机の上に積み上げられ読まれる時を待っているので。
PSYCHO-PASS GENESIS 1 (ハヤカワ文庫 JA ヨ 4-6)
- 作者:吉上亮,サイコパス製作委員会
- 発売日: 2015/03/06
- メディア: 文庫
愛することの話、「ナラタージュ」
話を聞き終えた彼は、そうかあ、となんだか一仕事終えた後のような表情を浮かべた。
「そんなふうに誰かを深く愛したことがあるなんて、俺には経験がないからうらやましいよ」
「愛していたとか、そんな大袈裟なものじゃないです。最初に会ったときなんか高校生だったし、まだ子供だったからよけいに、この人しかいないっていう思い込みが強かったんですよ」
「そうかな。年齢に関係なく愛したりはすると思うけど。工藤さん、きっとそれ、子供だったから愛とは違うとかじゃなくて、子供だったから、愛してるってことに気付かなかったんだよ」
島本理生『ナラタージュ』
ナラタージュでいっとう好きなシーンは映画ではカットされてしまった。残念ながら。
子どもだからわからない、という言葉が嫌いなのは、わたしが子どもだからなのだろうか。ティーンを通り抜ける寸前の今、少なくとも、大人たちよりはよく知っている。子どものころ、あんなにも感情は色濃く鮮やかだったということを。余計なものが混らないぶんきっと純度が高かった。薄く真新しいせいで指先を傷つける頁のように、わたしたちは鋭くしなやかに瞬間を生きていた。
愛することに向いた年齢というのはないと思っている。小学生の頃強く家族を愛し、中学生の頃切実に自分を愛し、高校生の頃すがるように友人を愛し、大学生のいま時に間違った人を愛して傷ついている。七つの少女がじょうずに好きなひとを愛することもあるし、七十の男性が知恵深く伴侶を愛することもある。だから面白いのだ。
感情には成熟があるけれど、優劣はない。幼いからといって愛せないわけじゃない。そうして後で振り返ってその感情に名前をつけるのだ。
慌ただしく通り過ぎた瞬間をたまに振り返って、いくつかに愛と名付ける営みを愛しく思う。
- 作者:島本 理生
- 発売日: 2008/02/01
- メディア: 文庫
4月に読んだ本のまとめ
鬱々としていた日も多くあまり読めなかった。本が読めないとき、嗚呼メンタルが疲れているな、と思う。アニメPSYCHO-PASSの槙島も言う通り、本を捲ることは「精神的な調律」なので、紙の本への接し方で自分の調子は分かる気がする。
- 1.芥川龍之介/煙草と悪魔
- 2.稲盛和夫/君の思いは必ず実現する
- 3.大平健/診療室に来た赤ずきん
- 4. 木下龍也/つむじ風、ここにあります
- 5. 今野敏/エチュード
- 6.今野敏/清明 隠蔽捜査8
- 7.今野敏/蓬莱
- 8.矢作直樹/自分を休ませる練習
- 9.吉上亮/PSYCHO-PASS ASYLUM1
- 10.吉上亮/PSYCHO-PASS ASYLUM2
- 11.アガサ・クリスティー/火曜クラブ
- 12.R=P=ファインマン/困ります、ファインマンさん
- 13.吉本ばなな/キッチン
- 14.金原ひとみ/蛇にピアス
2.稲盛和夫/君の思いは必ず実現する
記事にした。京セラ社長の語る人生論。
「君の思いは必ず実現する」、転がる石の話 - はみだし者の国
- 作者:稲盛 和夫
- 発売日: 2004/04/01
- メディア: 単行本
3.大平健/診療室に来た赤ずきん
患者の物語を御伽噺になぞらえて紐解く精神科医のケース紹介。御伽噺に共通する要素の考察も興味深い。
愛の原義は「饋」すなわち食物の贈り物です。
- 作者:大平 健
- 発売日: 2004/08/01
- メディア: 文庫
4. 木下龍也/つむじ風、ここにあります
再読。記事にした。現代短歌の新進気鋭、木下龍也さんの歌集。
「つむじ風、ここにあります」、悼む権利の話 - はみだし者の国
- 作者:木下龍也
- 発売日: 2013/05/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
7.今野敏/蓬莱
今野敏にハマるきっかけになった三冊。とにかく面白くぐんぐん読める。武道にも通じた筆者なので暴力シーンの描写の細やかさも見所。
- 作者:今野 敏
- 発売日: 2013/12/20
- メディア: 文庫
- 作者:今野 敏
- 発売日: 2016/08/11
- メディア: 文庫
9.吉上亮/PSYCHO-PASS ASYLUM1
10.吉上亮/PSYCHO-PASS ASYLUM2
アニメPSYCHO-PASSの世界線の話。他作品のノベライズとは一線を画す濃密さ。筆者の筆力と、PSYCHO-PASSの世界観の精密さに唸らせられる。
記事にした。
善悪の再評価の話、「PSYCHO-PASS ASYLUM1」 - はみだし者の国
PSYCHO-PASS ASYLUM 1 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者:吉上亮,サイコパス製作委員会
- 発売日: 2014/09/10
- メディア: 文庫
PSYCHO-PASS ASYLUM 2 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者:吉上 亮
- 発売日: 2014/11/21
- メディア: 文庫
12.R=P=ファインマン/困ります、ファインマンさん
ノーベル賞受賞者である物理学者のファインマンさんの話の聞き書き。下記のブログで紹介されていたので読んだ。ブログは高校生の時からなんども読み返しているもの。
b.log456.com
原爆の製作にも関わった一人である彼の「科学の価値とはなにか」という講演も収録されており胸を打つ。英語版でもぜひ読みたいところ。
人はみな極楽の門を開く鍵を与えられているが、その同じ鍵は地獄の門をも開く。
- 作者:R.P. ファインマン
- 発売日: 2001/01/16
- メディア: 文庫
善悪の再評価の話、「PSYCHO-PASS ASYLUM1」
「僕は思うんだ。悪を選んだ人間は押しつけられた善を持っている人間よりずっと人間だろう、と」
「何に価値があり、何が幸福であるか。それを決めるのは社会でも、他者でもなくーー自分自身の意志だけだ。だから、そうして選び取られたものは、どのようなものであれ、正しく、尊い」
吉上亮「PSYCHO-PASS ASYLUM1」
常に思考し続けることは人間を人間たらしめる必要条件であると思う。決して他者の価値観も法の定める善悪も鵜呑みにすることなく、既存の価値は試され続けなければならない。
その昔、天は動くものであったし全ての生き物はすべて神によって今の形そのままに作られていた。女は家庭で家を守る存在であったし、夫は夜な夜な妻を問い、宗教を理由にまだ幼い少女は生殖器を切り取られた。
社会の定める善悪は移り行く。不変でもなければ絶対でもない。再評価を必要とする、人間の作り上げた代物だ。
それでもなぜ善悪の基準が必要とされるのかというと、社会を存続するためだ。社会の幸福のため法律は必要とされる。
集団の一人として法は守らなくてはならない。肝心なのは、法を守ること、つまり善を、自分の意思でを選ぶことだ。
わたしは冒頭の発言をした登場人物ほど過激ではないので、悪を選び行動することを良しとはしないし、善を唯々諾々と受け入れる人間が悪を選ぶ人間に劣るとは思わないが。
PSYCHO-PASS ASYLUM 1 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者:吉上亮,サイコパス製作委員会
- 発売日: 2014/09/10
- メディア: 文庫
悠々自適な生活と隠れたストレスの話
読書、読書、昼寝、読書。たまに友人と電話をして、外で縄跳びをしてみたりして、また自室に引きこもり。
外出自粛を余儀なくされ、授業開始日を待つ大学生の1日なんてこんなものだ。徐に部屋の模様替えをしてみたりして、なかなか快適な生活だと思っていた。が、綻びが出始めた。
ストレスである。
増える口内炎に来ない生理、夜は寝付けず無性に気分が落ちなんとなく泣く。なんだか自分でも出どころのよくわからないストレスは1週間ほど静観しているうちにおおまかに掴めてきた。
おそらく、逃げ場がないことに起因している。なにがあったって家の中にいるしかない。そもそも親との関係があまり良くなく、去年は深夜までバイトを詰めて家に帰らなくても良いようにしているほどだったので、当然といえば当然だ。
通勤・通学時間がなくなり身体的に楽になったように感じる人も多いと思う。けれど、その影に降り積もるストレスに目を向けて適切にケアする必要がある。
お題「#おうち時間」
ピアスという存在証明の話、「蛇にピアス」「刺青」
「スプリットタンって知ってる?」
「何?それ。分かれた舌って事?」
「そうそう。蛇とかトカゲみたいな舌。人間も、ああいう舌になれるんだよ」
金原ひとみ『蛇にピアス』
『蛇にピアス』の冒頭も冒頭、最初の1ページ目の会話だ。同書によると、舌ピアスのゲージを徐々にあげていき、穴を拡張して最後に切り離すとスプリットタンになれるらしい。生きていく上でこれっぽっちも必要がない人体改造。
ピアスもタトゥーもスプリットタンも生きていく上で必要なんてない。それでも何故するのかと言ったら、やっぱり何かを証明したいのだと思う。
ここにいること。自分が自分であるということ。自分の体は自分のものであるということ。
海で死んだ遺体は身元の判明が付き難い有様になってしまうから、漁師は昔刺青を入れたのだと聞く。
「己はお前をほんとうの美しい女にする為めに、刺青の中へ己の魂をうち込んだのだ、もう今からは日本国中に、お前に優る女は居ない。お前はもう今迄のような臆病な心は持って居ないのだ。男と云う男は、皆なお前の肥料になるのだ。………」
谷崎潤一郎『刺青』
持って生まれた体に手を加えて本当の自分になるのだ。肉体に穴を穿つ事は不可逆な行為である。時がたち穴が埋まっても、穴を開けたという事実は失われることはない。「ホリミヤ」でも「オタクに恋は難しい」でも、彼らは痛みを確認するように、大人になろうと、自分であろうと足掻くように耳に穴をあける。
ということで、右耳に2個目のピアスを開けた。これで左右4個目、1個はもう埋まってしまったけれど。
ピアッサーはおなじみセイフティピアッサーを使っている。自分で多少グッと押し込む必要があるけれど、バネが効かない分狙ったところに挿せるのでリピートした。
次はタトゥーを入れたい。
- 作者:金原 ひとみ
- 発売日: 2006/06/28
- メディア: 文庫
去年の誕生日の話
誕生日が好きだった。こんな歳まで生きてきて偉い、と自分を褒められるので。14の誕生日には死にたかった。毎年、生を選んできた1年を振り返り自分を褒める。また1年重ねていこうと心に決める。
去年の誕生日には棘が刺さった。いまだに抜けない棘が。
友人たちの祝福と、行きつけのショップのクーポン券で始まった1日に水を差したのは母親の一言だった。
「産んであげたお母さんに感謝はないの?」
祝福の1つもなしに、疲れた顔に少しの悪意を滲ませて言い放たれ、喉が締まった。なんとかえせばいいのかもわからずに口を開けて、閉じた。ありきたりな、しかし明確な意図を秘めた一言だった。彼女はわたしを傷つけようとしていた。
今年の誕生日を迎えるのは少し怖い。去年のシーンが再び繰り返されたら、今度こそわたしは彼女を愛せなくなってしまう。